「久々に零さんについて語れてよかった!また聞いてくれるかの?」
すっきりした笑顔で百夜は問いかけた。
「はい、私でよければ喜んで。」
「ええ~…甘々すぎて俺はもういいや…。」
興味津々の流華とは逆に、机に突っ伏して流音が白旗を揚げる。
「は、流音はお子様だのう。流華、近場に一匹お主の自由研究に役立ちそうなのがおるんだがどうじゃ?」
「是非ともお願いします。まだ叔父さん達と百夜さんしか聞けてなくて。」
「ならば善は急げだな。行くぞ。」
「いってらっしゃーい。るかちゃ夕飯までには帰るんだよ~。」
「うん、伯父さんに出掛けるって言っといて。」
先を行く百夜を追いかけ伯父の店をあとにする。
~カラン~
「ようこそいらっしゃいま…て、び、び、百夜様…!」
「久しいな、鶏の。」
百夜はスーツに身を包みモノクルをかけた初老の男に声をかけた。
「(…喫茶店…?)」
「今日は羊と獅子はおらんようだな。好都合好都合。」
「わ、ワタクシになんの御用でしょうか…!」
「今日は怖がらせにきてはおらん。ちょっとこの娘の自由研究に役立ちそうだと思ってきただけだからの。」
すっと目線を流華に向ける。
「初めまして。天命流華です。」
「…カラ=アゲと申します…。流華様、以後お見知りおきを。」
「鶏…なんですか?」
どう見ても初老の男に流華は小首を傾げた。
「はぁ…、私は実際は鶏でございますね。そちらの百夜様と同様姿を変えております。」
「勿体ぶらずに見せてやればよかろう。」
百夜の言葉にカラアゲは体をびくつかせ、小さくため息を吐いた。
「…面白くもなんともないですよ…。私、ただの鶏ですから…。」
「………!(ふかふか)」
瞬時に初老の男がでかくて白い鶏へと姿を変える。その見事なまでの羽毛に流華は暫し見惚れた。
「まぁ儂の方がふかふかだがの。それより流華、自由研究があったろう。」
「あ、そうでした…。カラアゲさん、結婚してますか?」
「え!?しょ、初対面でそのようなことをお聞きになるのですか…?」
鶏の姿で頬を染めるカラアゲを見て百夜はカラカラと笑った。
「夏休みの自由研究だそうだ。貴様にとっては初対面だが儂の知り合いだからの。答えてやってくれ。な?」
「う…。目で脅さないでくださいませんか…。あー…私、結婚はしておりませんし今後もする予定はございません。」
「…今後も?」
予想外の答えに流華はさらに小首を傾げた。
余計なことを言ってしまったという顔をし、口元を隠しながらカラアゲは答える。
「…兎も角、質問にはお答えいたしました。掘り下げての質問は回答いたしかねます。」
「ケチじゃのう。流華、奴ら魔族の雄はの、心に決めた相手が出来ると成就してようがしていまいが年を取るんじゃよ。
相手を想う気持ちが深ければ深いほど年を取る。」
「え、じゃあカラアゲさんは…。」
「……!!…黙秘いたします…。初対面の方にお話する義理はございません…。」
「儂も無理強いはせぬが、流華よ、つまりは仲良くなれば話してくれるらしいぞ?」
「な、なにを勝手なことを仰いますか…!」
「ここは茶を出す場所じゃろう。客として通うのは問題なかろう?」
「…拒否する理由はございません…が…。」
「だ、そうだ。カラアゲの話に興味があったら親密度を上げていくがいいぞ、流華。」
「親密度って…ゲームではございませんのですから…。」
深くため息を吐き、ちらりと流華を見る。
「…興味があります。何時か話して頂けるよう親密度を上げていこうと思います。」
「…百夜様…!!」
「客も増えたからよいではないか。(しかしこん子は何事も真に受ける子じゃのう…。)」
「回答いただけましたし、私は夕飯の支度をしなければならないので失礼します。突然押しかけてすみませんでした。今度はお客として来ますね。」
「あ…はい、お待ちしております。」
「それではの、鶏の。」
自由研究の二人目の回答をゲットしてその日は帰路についた。